旅ナカで、旅行者に寄り添い情報発信するアプリ ” Japan Travel Guide +Connect ”と事業連携

デジタルツールの活用は、コロナ禍における人々の生活や働き方を一変させましたが、観光分野ではスマートフォンのアプリなどを活用した情報サービスもここ数年目覚ましい発展をしてきました。当社で開発をしたスマートフォン用アプリ“Japan Travel Guide +Connect”を活用した実証実験での旅行者行動分析を通じ、情報発信における課題と解決につながる取り組みをご紹介します。

西 那津美研究員

柴田 大輔主任研究員

目次

1. はじめに

社会におけるデジタル化のスピードは年々加速し、私たちは今まで想像できなかったようなさまざまな商品やサービスを享受できるようになりました。観光分野でもデジタル化の恩恵は大きく、例えばシェアリングエコノミーのしくみにより、ホテルや旅館という既存宿泊施設以外にバケーションレンタルが広がったり、ビッグデータの解析により繁閑予測ができたり、仮想現実や拡張現実による旅行体験が広がったりと、便利でお得という機能価値だけではなく、個々人の体験価値の質の向上にも貢献するサービスが生まれています。その一方で、デジタル化が進んだからこそ多くの人が、溢れる情報に戸惑うという新しい課題も見えてきました。

当社は「旅ナカ」といわれる旅行中に、いかに「ストレスなく」、「すぐ役に立つ」情報を取得し、旅行を楽しむかということに焦点をあて、”Japan Travel Guide +Connectというスマートフォンのアプリケーションを開発しました。観光情報や様々な機能を提供することで、ユーザーの「ご当地ならではのものが食べたい」、「急に雨が降ってきたので、屋内で遊べる観光スポットに行きたい」等の旅の状況に応じたニーズに応えるしくみです。

現在このアプリは、旅行者の利便性を高めながら、地域の観光事業者や様々な業種業態とも連携し、旅行者行動の解析から、旅行者、事業者双方の課題解決に導く実証事業を進めています。本文では旅行中の最適な情報提供のあり方を検討する取組みから見えてきたことを一部紹介します。

2. 現在地に応じた適切な情報提供を行い、潜在的ニーズを喚起するアプリケーション

旅先の情報はウエブサイトやSNSから、というのが当たり前の時代になってきましたが、旅行前の「旅マエ」と旅行中の「旅ナカ」では、情報の取り方が変わってきており、少し勝手が異なります。当社の過去の調査で、旅行前、旅行中での情報源を聞いたところ、旅ナカでは、「検索サイトで検索した」が27.2%と旅マエの54%の約半分になり、その一方で、「現地のフリーペーパーやガイドブックで見る(16.6%)」、「ホテルのコンシェルジュなどに聞いた(13.1%)」、「観光案内所で聞いた(7.1%)」と現地での人や印刷物といったリアルなものがすぐ後に並びます。旅行者が旅ナカでは、「その時に、その場で」得られる鮮度の高い情報を求めていることがわかります。(図1参照)。

図1 旅先での情報収集(現在地周辺の情報収集について)

(出典:JTB総合研究所:進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(2019)より)

Japan Travel Guide+Connectは、旅行者に対して現在地に応じた情報を提供することに特化したアプリケーションです。全国の観光情報や体験プログラム、飲食店情報等のコンテンツを保有しています。さらに、旅を便利に快適に過ごすための、Wi-Fi接続機能、翻訳機能、商品多言語紹介機能を一つに統合しているため、複数のアプリケーションを利用することなく、現在地周辺の個々人の好みに応じた情報を入手することができます。(図2参照)。

図2 アプリケーションイメージ図

3. アプリケーションを事業者目線で有効活用するマーケティング機能Japan Travel Bridge

当社は、旅行者を通じて地域の経済活性化に貢献したいと考えている事業者に対して、Japan Travel Bridgeというサービスを提供しています。これは利用者向けサービスのJapan Travel Guide +Connectを顧客側の接点とし、事業者からダイレクトにアプリ利用者へ情報配信をしたり、行動データを取得して、分析などを行ったりできる機能があります(図3参照)。この情報配信システムでは、観光事業者は来店(来場)促進や消費単価向上、リピーター獲得につながる情報を、旅行者の行動導線に応じて配信することが可能です。例えば、旅行先で観光情報誌や観光情報サイトには載っていない地元の人だけが知るお店や、その日に穫れた地元特産物の情報を旅行者に発信することで、認知されていないその土地の魅力を伝えることができます。

このアプリでは、利用者の国籍や居住地域、性別や年代、旅行中の滞在拠点など個人を特定しないデータを取得し、分析することで、あいまいだった人物像の特定やターゲティングの絞り込みが可能となります。

図3 Japan Travel Bridgeソリューションの構成

4. Japan Travel Bridgeを活用した、旅行中の最適な情報提供のあり方を検討する取組みについて

(1)福岡国際空港株式会社との取組み

福岡国際空港株式会社とは、空港利用者との顧客接点を創出することで、旅行中の情報提供が旅行者へ与える効果について検証を行いました。福岡国際空港は『国際ネットワークの拡充を図り、交流人口の拡大による地域活性化に寄与すること』を掲げていますが、事業範囲が福岡空港であることから、情報発信のタイミングは空港内に限定されてきました。

空港を起点とした顧客接点が九州域内の活性化に資する可能性を探るべく、今回の実証では、空港でアプリケーションをダウンロードしたユーザーに空港内免税店で利用できる割引クーポンを発行し、購買行動への効果検証を行いました。タイミングに拘らず、一斉に告知した際に比べ、土産品の購入を検討している場面で告知した今回の取組みでは利用率を約2倍上げることがわかりました。情報提供のタイミングの重要性に加え、空港を起点とした旅ナカの情報配信手段の有用性を検証することができました。今回は空港内に限定した取組みではありましたが、九州域内の観光施設や小売店、飲食店等と連携し、取組みを拡大していくことで、交流人口の活性化や域内の経済波及効果につながる可能性を見出せると考えています。

(2)サッポロホールディングス株式会社との札幌市での取組

サッポロホールディングス株式会社とは、札幌市観光協会との連携により、消費促進、回遊促進、動向把握を目的とした検証を行いました。同社にとって北海道はふるさとである、北海道の地域経済活性化への貢献を目指しています。

今回は札幌市観光協会が運営するJR札幌駅にある札幌観光案内所、サッポロビール園、サッポロビール博物館、銀座ライオンや炙屋等の飲食店の協力を仰ぎ、アプリケーションのダウンロードを促進し、各拠点のWi-Fi利用者に対し、連携施設への訪問を促す情報を配信しました(図4参照)。

図4 訪問を促す情報配信イメージ

20年1月中旬以降の取組みであったことから、新型コロナウィルス流行の影響を受け、回遊促進効果については検証できなかったものの、PUSH配信機能を活用した各施設間の送客に繋がるスキームを築くことができました。

加えてアプリケーションの利用ログを活用して、札幌市内の何処で誰が(国籍別や性年代別)どんな商品に関心があるのか、という購買動向の把握に繋がる分析を行いました。パッケージに北海道限定や特産物を使った商品であることを分かりやすく表示した商品の購買意向が高く、購買機会は、狸小路沿いに多いことが分かりました(図5参照)。商品や販売促進を検討する際の客観的データとして活用できることがわかりました。

図5 アプリケーションの利用ログから取得された購買意向に関するデータ

二つの取組みを通じ、旅行者の行動に合わせ、計画的に情報提供することで、旅行中の行動変容につながることが検証できました。さらに、アプリケーションから取得されるGPSデータや利用ログデータから、ユーザーの旅行目的や旅行中の動向、購買意向を把握し、販売促進や商品やPRなどの戦略策定、観光コンテンツの磨き上げや回遊促進等、経済活性化につながる施策の客観的エビデンスとして活用できることがわかりました。

5. 取組みを通じて見えてきた課題と今後の方向性について

一方で、今後、取組むべき課題として以下の2点を確認することができました。
1点目は、日常的な生活スタイルや嗜好性をユーザーごとに判別し、旅先での情報配信を個々人ごとに最適化する仕組みづくりです。今回の取組みでは、PUSH配信タイミングについて、アプリケーションで登録された属性情報と位置情報による仮説を元にマニュアル的に設定をしました。個人を特定しないデータを蓄積し、個々人の嗜好性を判別することで、例えば、週末はキャンプ場に出向く機会が多いユーザーに対して、旅先の漁港で上がったばかりの鮮魚の情報を配信して、キャンプ場に向かう途中に市場へ立ち寄るきっかけを作ったり、伝統行事の民族芸能の催事をPRする際には、普段から観劇場に出向く機会が多いユーザーに絞り込んで情報を配信したりするなど、個々人の嗜好性によってセグメントを簡単に絞り込むことができる仕組みが必要です。

2点目は、地域に訪れた旅行者を最大限に楽しませる為には、個々人に合う情報配信を一部の観光関連事業者だけが取組むのではなく、地域にある様々な業態業種が連携し、面として地域の魅力を配信する必要があります。この取組みが全国に広がることにより、旅行中だけでなく、日常生活の中でも地域の新たな発見につながると考えています。

最後に、ニューノーマル時代の観光として、観光庁から『非接触』と『分散化』がポイントされる『新しい旅のエチケット』がまとめられました。

Japan Travel Guide +Connect及びJapan Travel Bridgeが、ニューノーマルと言われる時代において、個々人の嗜好性に合った情報提供の実現により地域の魅力発信を最適化させ、人々の行動を『分散化』させることで、WITHコロナ禍でも、個々人が満足を感じる旅行体験の実現に寄与したいと考えます。